米国で拡大するMFC
―配達ニーズの柔軟性に対応する動き―

海外市場調査部 研究員   飯塚 希

 米国におけるEC(Eコマース)市場は、急速な成長を続けている。米国の政府統計によると、2024年Q4のEC売上高は3,089億ドル、前年同期比+9.4%と増加している。小売売上高に占めるEC割合も拡大しており、2024年Q4は16.4%(前年同期は15.6%)となっている。

 EC市場の拡大にともない、配達ニーズも多様化が進んでいる。パンデミック下では、日用必需品が入手しづらい環境となったことから即日配達の需要が急速に増大したが、現在では、配達日指定やBOPIS(Buy Online, Pick Up in Store:オンライン注文を実店舗で受け取るサービス)などの柔軟性の高い配達サービスに対する需要も急拡大している。

 小売業で配達ニーズの多様化への対応力が問われる中、Micro-Fulfillment Center(MFC)が注目を集めている。MFCは、商品の保管から梱包、発送までを一気通貫で行う施設の一種であり、規模が小さく(概ね1,000㎡以下)、高度な自動化設備が導入されていることが特徴である。既存店舗やラストワンマイル型の倉庫に併設することで、配達までの時間短縮や顧客対応力の強化が期待できるほか、人手不足の深刻化を背景に、企業の自動化へのニーズが高まっていることもあり、MFCの導入が進んでいる。例えば、ディスカウントストアチェーンのTargetは、小売店舗をオンライン注文の処理拠点として活用する「Stores-as-hubs」戦略を採用しており、直近では、薬局チェーンのWalgreensは、2025年1月に行った決算発表において、MFCがサービスを提供する店舗を現在の4,500店舗から今後12か月で6,000店舗に増やすと発表した。

 これまで、郊外型のEC物流拠点がECビジネスの中核を担ってきたが、今後は、都市中心部や近郊にあるMFCの配置がECビジネス拡大の重要な布石になると見ている。新規の設置のみならず、収益性が悪化した店舗がMFCとして新たな役割を担うことも想定されるし、ラストワンマイル型の倉庫が、BOPIS機能をもったMFCとして活用される可能性もあるだろう。MFCは、小規模のため取り扱い可能な商品数が限られることや大型商品の保管に不向きといった弱点はあるものの、生鮮食品や冷凍食品、日用雑貨をタイムリーに入手したい消費者と、EC事業の更なる拡大を目論む小売企業をつなぐ結節点としての役割は大きい。ECにおいてもサステナビリティが求められる中、小規模でメンテンナンスが少なく済み、配送距離の削減によって炭素排出量の削減につながるといった点も、MFCの需要を押し上げるだろう。

 こういったMFC関連投資も拡大が見込まれる。例えば、スーパーマーケットチェーンのWalmartは、2025年1月、店舗併設型MFCの自動化システム開発のために、ロボティクス物流企業のSymboticに5.2億ドルを投資すると発表した。この投資が呼び水となって、他の企業もMFCへの大規模な投資を進める可能性がありそうだ。不動産投資市場の観点では、足元は、小売企業や地場不動産企業などのプレイヤーが中心であり、ローカル色が強い。大型のEC拠点であるCentralized Fulfillment Center(CFC)はひとつのアセットクラスとして認知されているが、将来的に、まとまった規模となれば、機関投資家によるポートフォリオ取得も予想される。

関連する分野・テーマをもっと読む